ライオンの毛皮

ある地主が大勢の農夫を使い、畑を耕し、麦をまいた。やがて麦は芽生え、ぐんぐん伸び、日の光を浴びて青々とそよいでいた。いつの年も、こうして農夫たちは畑を耕し、麦を作り、実れば取り入れて暮らしていた。

その年、農夫たちが作った麦の畑に、奇妙な動物が来て、伸びかかった麦を片っ端から食べていた。それは、頭から背中にかけてはライオンであり、しっぽや背丈はロバとよく似ているという、珍妙なものだった。
「追い払ってしまえ。畑を荒らすやつを。」
地主は変な動物を見て叫んだ。しかし農夫たちはだれ一人追っ払いに出ていく者はいなかった。
「あれはライオンだ。恐ろしい。」
みんなしりごみした。変な動物は、近寄る者もいないので、ゆうゆうと麦を食べていた。
さて、周りにだれもいないところを見計らって、一人の商人が変な動物のそばへ来た。商人は無造作にライオンの頭をつかむと、バサッとそれをはぎ取った。奇妙な動物はライオンの毛皮を着せられたロバだったのだ。商人はロバの背中へ薬の袋を積むと、隣の村へ薬を売りに出かけた。商人はロバに話しかけた。
「お前さん、この毛皮を着ていれば、たらふく畑の作物が食えるし、人間も近寄ってこない。どうだ、わしの考えはいいだろう。」
そして明くる朝、商人は自分が宿屋で朝食を食べている間、自分のロバにまたライオンの毛皮を着せて麦畑へ離しておいた。農夫たちが作った麦を、ロバは片っ端から食い荒らしていった。農夫たちは自分たちが汗を流して作った麦を食われ、畑を踏み荒らされるのにたまりかねた。そして、ついに変な動物を退治しようと、立ち上がった。
「おうい、みんな、刀や弓をもって集まるんだ。あの妙なライオンをやっつけてしまおう。」
農夫たちは手分けして触れて回った。
日の光がきらきらと畑に輝きだしたころ、ロバは緑の麦を腹いっぱい食べ終わった。その時、農夫たちは一人一人弓矢を持ち、ライオンを捕まえようと集まってきた。やがて男たちはほら貝を吹き、太鼓を打ち鳴らした。
「ワァー」
農夫たちはときの声をあげてライオンに近づいた。ロバは驚き、一声高くいなないた。
「やっ、ロバだぞ。ロバの声で鳴いたぞ。」
農夫たちはロバだと分かると、ぐるりとその動物を取り囲んだ。ライオンに見せかけて人をだました化けの皮ははがれた。農夫たちは寄ってたかってロバを捕らえ、畑の麦を食い荒らされた仕返しに、骨も砕けるほど打った。そしてライオンの毛皮をはぎ取っていってしまった。
ロバは裸にされ、息も絶え絶えになって横たわっていた。そこへ薬売りの商人が来て死にかかったロバを見た。商人はうたを唱えた。

ライオンの 毛皮まとって声たてず

威厳(いげん)示せば いつまでも
食べられたものを 良い麦を
余計な声で 自滅した
ロバのいななき 命取り

唱え終わった時、ロバは息絶えた。薬売りはロバを捨てて立ち去った。

ジャータカ189

類話:ヒトーパデーシャ3、イソップ物語

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