キンスカの木

昔、バーラーナシーの王には4人の王子がいた。

ある時、王子たちが集まっていろいろな話をしているうちに、いつしかキンスカ(マメ科ハナモツヤクノキ)という木の話になった。
しかし、4人ともキンスカという木を見たことがなかった。
「だれも見たことのない木の話をしても、結論が出ないな。」
4人はキンスカの木を見にいこうと相談した。
「ねえ、あの年寄りの御者に頼んだらどうだろう。」
4人は御者の所へ行って頼んだ。
「私たちはキンスカの木というのが見たいんだけれど、知っていたら、連れていって見せてくれないか。」
「よろしゅうございます。でも王子さま、この車は私のほかに一人しか乗れません。それに、たいへん忙しいので、私の都合のつく時に一人ずつお連れすることにしましょう。」
御者はそう言って承知してくれた。まず第一の王子を馬車に乗せて森へ連れていった。
「はい、これがキンスカの木でございます。」
木はちょうど芽を吹いている時だった。
第二の王子は、それから少したって森へ連れていってもらった。若葉が盛んに茂っていた。
第三の王子は、まるで人の手のひらのような花の咲くころに見せてもらった。
第四の王子は、もう実がたくさんついているころ連れていってもらった。
その後、四人がまた集まった時、得意そうにキンスカの木について話し合った。
第一の王子は言った。
「キンスカの木って、赤い芽がきれいだ。まるで柱が燃えているようだった。」
第二の王子は言った。
「いや、ニグローダ(桑科バンヤンジュ、別名バンガルボダイジュ)の木みたいに、たくさんの若葉が茂った大きな木だったよ。」
第三の王子が言った。
「私は真っ赤な肉のかたまりみたいだと思いました。人の手のひらみたいな形で、少し気味が悪かったけれど。」
第四の王子が言った。
「そうじゃないですよ。シリーサ(マメ科ビルマネムノキ)の木にそっくりでした。見事な実を結んで…。」
そんなわけで、四人は各々、自分の意見を固く言い張って譲らなかった。
そこで、みんなは父王の所へ出かけていった。王は水浴のすんだところで、きげん良く四人の息子を迎えた。
「お父上。わたしたちは皆、御者からキンスカの木を見せてもらったのですが、お互いに言うことは全く違っています。どうしてでしょう。いったいキンスカって、本当はどんな木なのですか。」
王は、一人一人にもう一度見たものを詳しく説明させた。そして言った。
「みんなは確かにキンスカの木を見たのだ。でも、その見せてもらった時、これはキンスカのどんな時の姿なのか、時期によってどのように違うものなのかを、どうしてしっかり聞いておかなかったのだ。たとえば第一王子の時は、これはキンスカのどういう時期だからこんな赤い芽が出るのか葉はいつ出るのか、実はどこへどのようについていつなるのか、こういうことを一つ一つ、よく聞かなければいけないよ。目の前のことだけを見て帰るから、部分的なことしか分からず、キンスカについて完全な知識は得られないのだ。キンスカばかりではない。物事はみんな、あらゆる自分の知恵を絞って、完全な形でとらえたり考えたりしなければいけないのだ。そして、分からないことはよく聞いて、自分の疑問を一つ一つ消していくと、物事の本性がはっきりと見えてくるものなのだ。」
四人の王子は、なるほどと心から感心した。そして、大切なことを教えてくれた父王に丁寧に礼をして、その場を下がった。
それからは、各々がよく見、よく聞き、よく考えて学び、修行した。四人とも、成長すると、優れた人になったのであった。

ジャータカ248

類話:サムユッタニカーヤ35・204話、雑阿含経12

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