猟師とカモシカ

昔、ある森の中に、枝もたわわにたくさんの実をつけた、大きなセーパンニの木があった。

森の中に住んでいるカモシカたちは、いつもこのセーパンニの木の下にやって来て、おいしそうによく熟した実を食べていた。
村に住んでいる一人の猟師が、このセーパンニの木の下によくカモシカがやってくることに気がついた。それである時、彼はこの木によじ登り、高い所にある太い枝に台を作り、この台に座っていた。朝から夜まで、彼は根気よく木の枝に座って機会を待っていた。
三日目、セーパンニの枝に上に座っていた猟師は、カモシカたちが木の下にやって来たのを知った。
「しめた、この機会を待っていたんだ。」
彼は、木の実をおいしそうに食べているカモシカの首筋にシュッとやりを投げた。百発百中、ほとんどのカモシカは難なく猟師に捕らえられ、彼はその肉を売って金をもうけた。
猟師はその日も、木の下に真新しいカモシカの足跡を見つけた。
「ようし、明日も朝早く起きてあの木に登って待っていよう。この足跡の様子だと、カモシカはまだ若くて、きっと肉の柔らかい上物だぞ。」
翌朝まだ暗いうちから目を覚ました猟師は、やりの用意もそこそこに森に出かけた。そして、あのセーパンニの木によじ登ると、台の上に腰をかけた。そして息を凝らして、今か今かとカモシカの来るのを待っていた。

カモシカの群れの中に、一頭のたいへん賢いカモシカがいた。非常に落ち着いていたし、そのうえ用心深いカモシカだった。彼はこのごろ、仲間のカモシカが森で殺されてしまうことが多いのに気がついていた。
──森の、あのセーパンニの実を食べていると殺されてしまうってことは、そうだ、きっとあの木の上に猟師が隠れてねらっているんだ。

そう思ったカモシカは、あのセーパンニの木の真下には行かず、少し離れた場所にじっと立っていた。
一方猟師は、姿のいい、おいしい肉のたっぷりありそうなカモシカが、さっきからこちらの方を見ているので気が気でなかった。早くこの木の下に来てくれればいいのに、なぜあんな所にいるのだろうと、しだいに気持ちがいらいらしてきた。
そこで、おいしそうによく熟れた木の実をカモシカの方に投げ落とした。カモシカは、ふいにわざとらしい落ち方で木の実が落ちてきたことを怪しんだ。そこで、その木をゆっくりと見上げた。
じっと見ていると、枝の中にうずくまっている猟師が見えた。猟師はやりを構え、すぐにでも投げられるような姿をしていた。カモシカはそれを見届けると、わざと大きな声を上げていった。
「おうい、セーパンニ君、君はいつも、木の実を真下に落としていたのに、いったいどうしたんだい。今見ていたら、大きなおいしそうな実を、投げるように落としたね。セーパンニ君、君は木の実は真下に、真っすぐ落とすという気の約束を破ってしまったね。これからはもう君の木の実は食べないよ。ほかの木の下に行って、枝から真下に落ちてくる本当の木の実を食べるよ。さようなら。」
カモシカは晴れやかな声でうたった。

セーパンニ セーパンニ
わたしはすべてを 知っている
セーパンニ セーパンニ
だれかが枝に 潜んでる
だれかの投げる 不吉な木の実
わたしはそれを 食べないよ

そのうたを聞くと、猟師はかっとしてカモシカに向かってやりを投げたが、やりは力強く地面を刺しただけであった。

カモシカは振り返り、立ち止まって言った。
「お前はこんなやり方で、わたしの仲間をさんざんひどい目に遭わせたね。お前も死んだら、もっと苦しくて恐ろしくて地獄の中を歩いていくことだろうよ。火の海、血の池、針の山とね。そのうえお前のやりよりもっと痛い責め道具で、つらい思いをするだろうよ。」
カモシカは森の中に姿を消した。
「お前はもっとひどい目に。」
「お前はもっとひどい目に。」
カモシカの声が猟師の耳にいつまでも聞こえていた。

ジャータカ21

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