おとりのシャコ

昔、バーラーナシーの都に、ある若者がいた。彼は成年に達してタッカシラー(現在のタキシラ)の町へ行き、多くの学問を修めた。その後出家して修行に励み、ヒマラヤ地方の森で満ち足りた生活を送っていた。

若者は、塩と酸味の物が必要になると、村里へ出ていった。人々はその彼のひたむきな修行の姿を見て彼を尊敬し、みんな信仰の心を持つようになった。人々は森の中に木の葉でふいた小屋を建てて、暮らしに必要な物を持ち寄って、彼を住まわせた。
その村に一人の鳥刺しと呼ばれる、鳥を捕らえる猟師がいた。彼は一羽のシャコという鳥を捕まえて、おとりにするためによく芸を仕込み、かごの中に入れて飼っていた。
彼は、このおとりのシャコを連れてよく森に出かけていった。シャコは捕らわれの身の悲しさにせつなく鳴いた。すると、シャコの悲しげな声を聞いて、たくさんのシャコたちが集まってきた。鳥刺しはころあいを見計らって、シャコの群れを捕まえた。おとりのシャコはつらかった。シャコはつぶやいた。
「わたしのために、鳥の仲間たちがたくさん殺されてしまう。それもみんな、わたしが自分のつらさのために鳴いたためなんだ。すべてわたしの罪だ。そうだ、これからわたしは決して鳴かないようにしよう。鳴いてはいけないのだ。」
鳥刺しは、シャコがなんとしても鳴こうとしないので、竹のむちでシャコの体を、これでもか、これでもかとぶった。シャコは我慢していたが、とうとう苦しさに耐えきれなくなって鳴いた。それからというもの、鳥刺しは味をしめてシャコをぶち続けた。鳥刺しはこうして鳥たちを捕まえ、暮らしを立てていた。
おとりのシャコはつくづく思った。
──わたしは、仲間が殺されてもいいなどと、一度として思ったことはない。それなのにこの始末だ。わたしはなんと呪われて生まれたことだろう。わたしが鳴かなければ仲間は来まいが、わたしはつらさについ鳴いてしまう。ああ、わたしの罪は深い。だれか、このようなわたしの呪われた生活をすくってはくれないだろうか。
ある日、鳥刺しはいつものように、たくさんのシャコを捕まえて帰途に就いた。途中で疲れて水を飲みたくなり、ある小屋に立ち寄った。そこにあの信仰厚い修行者がいた。かれはシャコのかごを修行者の傍らに置いてゴクゴクと水を飲むと、あまりの疲れに、砂の上に座ってそのまま眠ってしまった。
シャコは彼がぐっすり眠り込んでしまったのを知ると、修行者の方へ目をやった。
──わたしが日ごろ悩んでいることを、この修行者に聞いてもらおう。この方なら、なにかいい知恵を与えてくれそうな気がする。
シャコはかごの中から修行者に向かってうたを唱えた。

たくさんのえさ 屋根あるかご
わたしは過ごす 安楽な日々
ところがこれらの 安楽は
仲間を殺す 手助けの
代償なのです 修行者よ
わたしはなにを なすべきか
我に教えよ 修行者よ

彼の問いに答えて、修行者もうたを唱えた。

鳥よ聞け
悪事をしようと いう心
お前は持たずに 結果として
悪事に加担 させられた
もしもそれが 真実ならば
お前の心が 正しいならば
汚れはしない その罪に

これを聞いて、シャコはまたうたった。

わたしが鳴けば 鳥たちは
仲間と思い そばに寄る
この鳥捕らえる 鳥刺しに
我が鳴き声の そのために
こうして罪業 重ねます
わたしの心は 惑います

修行者はまた、答えてうたった。

お前の心が 汚れておらず
つもりがなくても 犯した罪は
報いを受ける ことはない
心正しく いる者は
罪に汚れる ことはない

こうして修行者はシャコを教え諭した。

シャコはつらい心が少しいやされて、長いこと鉛が詰まったような胸のあたりの痛みが、少し薄らいだような気がした。
やがてうたた寝から目を覚ました鳥刺しは、傍らにいる修行者に気がついて、人が変わったように恭(うやうや)しく礼拝し、鳥かごを持って去っていった。

ジャータカ319

類話:ジャータカ117、摩訶僧祗律29

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