欲張りなめんどり

バーラーナシー(現在のベナレス)の都の近くに大きな森があった。森の中ほどに泉があって、いつも清らかな水をたたえていた。森の動物たちは、皆、泉にやって来て水を飲んだり、水浴びをしたりした。岸辺には一年中草花が咲き乱れていた。

ある時、この森に一羽の鳥が生まれた。幼い頃から聡明【そうめい】で、鳥の仲間から慕われ、成鳥になるころにはいつしか鳥の王に選ばれていた。この王のもとで、鳥たちは何不自由なく平和に暮らしていた。
しかし、生き物とは不思議なものである。不自由のない平和な暮らしは、やりきれない退屈さを呼ぶものらしい。鳥たちは、新しい世界、もっとおいしい食べ物、もっと美しい森を求めて旅をしたいと言い出した。
鳥の王は仕方がなく、数千羽の鳥たちを引き連れ、旅立った。
深々と雪をかぶったヒマラヤの近くまでやって来た時、鳥たちは口々に言った。
「なんと美しい景色だろう」
「あの白く輝く雪を一口でも食べることができたら、私たちの寿命は数倍延びるに違いない」
「ふもとには町もある。きっと、人間たちの食べる珍しい食べ物にもありつけるだろう」
そこで鳥たちはしばらくの間羽を休めることにした。
鳥たちは思い思いに、近くの山や森や川へ食べ物を探しに出かけた。
群れの中に、一羽の欲張りなめんどりがいた。めんどりはただ一羽、人間たちの住む町の方へ出かけていった。町の中をあちこち飛び回っていると、ある広い道路の上に、米や豆や果物などのごちそうが落ちているのを見つけた。道路の上をひっきりなしに、象や馬や牛に引かせた荷車が走っていた。ごちそうは、どうやらその荷車が落としているらしかった。
めんどりは目を輝かせごちそうをついばんだ。おなかがいっぱいになると、めんどりは考えた。
━━こんないいごちそうのありかを、仲間に知らせてやることはない。自分だけの秘密にすることにしよう。しかし、もし気づかれたら『この場所は、恐ろしい象や馬に引かせた車が走っている。急に飛び上がることなど到底できるものではない。危険だからあそこへは近寄らない方がいい』と言うことにしよう・・・・・。
めんどりは群れのいる方へ飛んでいった。

夕方、あちこち飛び回っていた鳥たちが帰ってくると、みんなは今日の出来事を話し合った。珍しい食べ物、初めて見る草花や動物など、それぞれが自慢げに話した。めんどりも自分の番が回ってくると、あのごちそうの話をしないわけにはいかなくなった。話をした後、めんどりはつけ加えて言った。
「でも、あそこへは決して行ってはいけない。あそこへ行くことは、自分の命を落としにいくようなものだ」

みんなもめんどりの言葉に深くうなずいた。
「そのとおりだ。いくらおいしいごちそうでも、命を落としてしまってはどうしようもない」
そして、いい警告をしてくれたというので、みんなは尊敬の気持ちを込めて、めんどりに警告者という名前をつけた。
ところがその翌日のこと、めんどりが群れから離れ、町の道路へ出かけてごちそうをついばんでいると、勢いよく走ってきた荷車に、あっという間もなくひき殺されてしまった。目の前のおいしいごちそうに惑わされ、まだ大丈夫、まだ大丈夫と思っているうちに、飛び上がる機会を失ってしまったのだった。
夕方、鳥の王は群れの数を調べてみると、どうしても一羽足りない。みんなで手分けして捜していると、町の道路で無残に死んでいる一羽の鳥を見つけた。王が近寄ってみると、夕べ、仲間から警告者と名前をつけられたばかりのあのめんどりだった。
王はめんどりを近くの森に運ぶと、手厚く葬り、群れに向かって言った。
「めんどりは、ほかの鳥には禁じていながら、自分でそこへ出かけていって車にひき殺されてしまった。めんどりは自分の欲に殺されたのだ」

ジャータカ115

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